私はカレー屋になれなかった

2018年4月、私は満を持して実店舗を構えた。
元々はマンションの一室を事務所として、そこに在庫をかかえて商品を発送したり、あとはイベントや催事の出店を主としていた。

実店舗がほしいと思ったのは、催事などでターゲット層ではない不特定多数のお客様を相手にすることに疑問を感じたことと、なによりコンセプトの「もらってうれしいおしゃれな昆布」と、キャッチコピーとして掲げている「おしゃれなひとはだしをとる」の、この2つがいまいち消費者の方に伝っていないという滞りを感じていたからだ。

例えば、イベント出店では大袋がほしいという要望や、この量(少ない)でこの値段?!(高い)と言われたり
おしゃれなひとはだしをとるってどういう意味ですか?って聞かれたり・・・

とにかくここに来たらこの商品を買うのがステータスでこの商品を見つけた自分いい!ってなって、この店に来たらおしゃれなひとはだしをとるって意味がなんとなくわかる!という場所がほしいと思ったのだ。

実店舗ができた経緯は省くが、無事にオープンしてからは私の目指す店舗運営ができていたと思う。入ってきたらお出汁が用意されていて、そのお出汁をとったのがおばあちゃんでもなくそこそこ若く小奇麗にしている私で、お出汁や昆布のイメージを一新した世界観を演出していた。それにとても満足していたのだが、それは突然やってきたのだ。

コロナ

である。

私の店舗は札幌市の観光スポットのど真ん中にあるので、観光客が気になって入ってきてくれる、そんなところだった。しかし、コロナになってお客が1人も来ない。ゼロだ。数十万あった売上が・・・ゼロ!!!!!!

しばらくは給付金などでしのいでいたが、このままじゃいけない。そこで思い立ったのがカレー屋だったのだ。観光客相手ではなく、地域の人にも喜んでもらえるものを作らなくては・・・!と。
今の昆布店をお出汁の入ったカレー屋にする。国民食でありカレーが嫌いという人はそうそういない。
昆布屋からカレー屋になるのは、今まで構築してきた世界観をくずしてしまうことに抵抗はあったが、好きなことをするのと稼ぐことは別ものだと言い聞かせ、2021年6月から突然カレー屋を始めたのだ。

お出汁が入ったカレーは徐々に売れだし、リピーターもついてきた。
雑誌やテレビの取材もきた。もっとがんばれば、これで生計を立てられる・・・

が!

私はカレー屋じゃなくて、昆布屋なのである。カレーが売れれば売れるほど、消費者の私に対する目がカレー屋さんになっていくのが耐えられなくなってしまった。

今の自分の現状を考えたらなりふりかまっていられない状況だから、ここはなんでもやって、踏ん張り時だと思って気持ちをなんとか盛り上げて頑張ろうとしたけど、自分のアイデンティティとは違うことを続けることはやはり難しかった。

カレーと同じくらいの集客力を見込めるとした、めっちゃ例えばの例として、お出汁茶漬けの店とかならまだ続けていこうって思えたはずだ。
それは、「おしゃれなひとはだしをとる」のコピーにのっとっているから。

ナナクラ昆布を続ける以上、
おしゃれなひとはだしをとる
という人でいることが私のアイデンティティだ。
カレー屋のほうがもうかる可能性あるからナナクラ昆布やめてカレー屋になるってことはできない。

そんな気持ちを再確認し、カレー屋はやめることにした。
そして、同じくこだわった実店舗もしばらく閉めようと思う。

今、ショッピファイでオンラインショップをリニューアルしているが
またあのマンションの一室で始めたころに戻って心機一転ゼロからまた這い上がっていこうと思う。


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